髪の毛が抜けていく
一本、また一本。
シャワーを浴びていると、僕のなけなしの髪の毛が少しずつ抜けていくことがわかります。
抜けた髪の毛は何かの拍子に排水溝に溜まり、詰まり、水の流れが悪くなります。
ついでに気持ちも悪くなります。
そういうときはさっさとパイプユニッシュなんかを注ぎ込めば一発で解決することはわかっているのだけれど、まったり待ったりしなくちゃいけないので今は少しばかり面倒が臭い。
ついでに排水溝も臭い。
だから甘んじて現状は受け入れることとして、その場はシャワーの水量を調節してやり過ごすこととします。
これくらいか、これくらいか。
これより勢いが弱ければ溜まらないけれど、これより少しでも強くしたら溜まっていく。
そういうギリギリのポイントを攻めてみる。
そうして無事に流れていくお湯の様を見て、なんとなく不思議に思います。
かたやシャワーが出ても溜まらないのに、ここから少し勢いを増しただけで溜まりだす。
少しの違いで得られる結果が大きく違ってくるのは、なんだか不思議なことのように思われました。
1が積み重なれば100にだって1000にだってなるが、-1が積み重なれば-100にだって-1000にだってなる。
1と-1で全然違うんだなー。
まるでそんなようなイメージが頭の中に浮かんだとき、ともすると、堕落した生き方を日々続けたら堕落した人生になるし、一生懸命な生き方を日々続けたら一生懸命が体現された人生になるのではなかろうか、なんて月並みなことを思いました。
人生は数値化できないですから、何をすれば下向きで、何をすれば上向きになるかなんてことは人それぞれでわからないけれども、今思う自分なりの上向きを意識して生きていくことが幸福に繋がる可能性があるのであれば、それを目指さない手はないだろう、という希望を排水溝に流れる水に僕は見ました。
しかしながらつまるところ、詰まる髪の毛を見るに、僕の髪の毛の本数も着実に下向きであるならば、いつかはつんつるてんのぴんぴかぴんぴんぱっかーん!ちょんまげ!的なことになるということになるわけですが、うーん、排水溝ともども甘んじて受け入れるしかないでしょうね。
いや、排水溝は頼れるパイプユニッシュがあったか。
髪の毛は……ご臨終です。
おしまい